企業が考えるUXと、ユーザーが感じるUXはなぜズレるのか
最近、プライベートで利用しているエンタメサービスの会員統合をきっかけに、改めてUXについて考えさせられる出来事がありました。
企業側の説明を見ると、
- 利便性向上
- 会員統合
- ポイント制度の拡充
- 顧客体験の向上
といった言葉が並んでいます。
一見すると、ユーザーにとってもメリットが多そうに見えます。
しかし実際に利用者として体験してみると、少し違う感覚がありました。
「便利になったと言われているけれど、自分は何が便利になったのだろう?」
そんな違和感です。
もちろん、サービス統合そのものが悪いわけではありません。企業として顧客基盤を整理し、サービス横断で価値を提供しようとすることは自然な取り組みです。
ただ、その体験を通じて改めて感じたのは、企業が考えるUXと、ユーザーが感じるUXは必ずしも一致しないということでした。
この記事でわかること
- 企業が考えるUXとユーザーが感じるUXは異なる
- ユーザーは機能よりも自分に合った選択肢を知りたい
- 企業のカテゴリとユーザーのカテゴリは一致しないことがある
- ユーザーは変化や負担を先に認識し、改悪と感じることがある
- UXの成功はユーザーの体験によって評価される
- ユーザーファーストはユーザーの体験を想像し続けることでもある
UXは誰のために存在するのか
UXという言葉は広く浸透しました。しかし実際の現場では、企業が考えるUXと、ユーザーが感じるUXは、しばしば異なる方向を向いています。
企業が考えるのは、
- 顧客データの統合
- CRMの最適化
- LTVの向上
- クロスセルの強化
- 会員基盤の共通化
といった経営やマーケティング上の課題です。どれも重要ですし、企業活動として必要な取り組みです。
一方で、ユーザーが見ているのはもっとシンプルです。
- 今まで通り使えるか
- 手間が増えないか
- 分かりやすいか
- 不安なく利用できるか
という体験そのものです。
企業は未来の価値を見ています。ユーザーは目の前の体験を見ています。この時点で、両者の認識にはズレが生まれる可能性があります。
「便利になった」は誰にとっての「便利」なのか
サービスリニューアルや統合の発表では、「より便利になりました」という表現をよく目にします。
しかし、この言葉には落とし穴があります。それは、誰にとって便利なのかが語られていないことです。
例えば企業側からすると、
- 顧客データを統合できる
- サービス横断でマーケティングできる
- 顧客分析がしやすくなる
- CRM施策を展開しやすくなる
といったメリットがあります。
経営やマーケティングの視点では非常に合理的です。
しかし利用者からすると、「それによって自分は何が便利になるのか」が見えない場合があります。
企業側には大きな価値がある。しかしユーザー側には価値が伝わっていない。
すると、「企業都合で変わっただけでは?」という印象につながります。
ユーザーが知りたいのは機能ではなく判断材料
今回特に印象的だったのは、会員プランの説明でした。
サービス側は、
- 還元率
- ポイント制度
- 会員ランク
- 特典内容
を丁寧に説明しています。
しかし利用者が本当に知りたいのは、「私はどれを選べばよいのか」ということです。
例えば複数のプランが存在する場合、比較表が用意されていることがあります。しかし比較表だけでは判断できないことが少なくありません。
なぜなら、ユーザーはサービスを理解したいのではなく、自分に合う選択肢を知りたいからです。
利用者の頭の中にあるのは、
- 月に何回利用するのか
- 映画しか見ないのか
- 演劇も利用するのか
- ライトユーザーなのか
といった、自分自身の利用状況です。
そのため本来必要なのは、「プランAとプランBの違い」ではなく、「あなたにはこちらがおすすめです」という意思決定支援です。
サービス説明と意思決定支援は別物です。
ここを混同すると、情報は十分にあるのに「結局どれを選べば良いか分からない」という状態が生まれます。
企業のカテゴリと、ユーザーのカテゴリは違う
今回もうひとつ興味深かったのは、サービス側が複数のコンテンツを「エンタメ」として統合していたことでした。
企業側から見ると、
- 映画
- 演劇
- イベント
は同じエンタメ領域かもしれません。
しかし利用者からすると、必ずしもそうではありません。
映画を楽しむ人と、演劇を楽しむ人では、利用動機や文化が大きく異なります。利用頻度も違います。コミュニティも違います。情報収集の方法も違います。チケット購入時の行動も違います。
企業は事業構造で分類します。
ユーザーは興味や目的で分類します。
つまり、企業が考えるカテゴリと、ユーザーが認識しているカテゴリは一致しないことがあります。
この違いを無視すると、企業側は「統合した」と考えていても、ユーザー側は「自分向けではなくなった」と感じることがあります。
なぜ「改悪」と言われてしまうのか
サービスリニューアル後によく見かける言葉があります。
それが「改悪」です。
興味深いのは、実際には機能が増えている場合でも「改悪」と言われることがある点。
理由はシンプルで、ユーザーは追加された価値よりも、失ったものや増えた負担を先に認識するからです。
例えば、
- ログイン方法が変わった
- 会員制度が変わった
- 移行手続きが必要になった
- 仕組みが複雑になった
こうした変化は、新しく追加された機能よりも強く印象に残ります。
企業は未来のメリットを説明しますが、ユーザーは今発生している負担を感じています。
この差が、「便利になったはずなのに改悪と言われる」現象を生み出しているのではないでしょうか。
UXは企業の満足を作るものではない
企業にとって成功したプロジェクトが、必ずしもユーザーにとって成功とは限りません。
- データ統合が完了した。
- CRM基盤が整った。
- 会員制度が一本化された。
これらは企業側から見れば大きな成果です。
しかしユーザーに価値が伝わらなければ、UXとしては成功とは言い難いでしょう。
UXは、企業が実現したい未来ではなく、ユーザーが実際に体験した結果によって評価されます。
だからこそ、「何を実現したか」だけではなく、「どう感じられたか」を考える必要があります。
まとめ
企業が語る「便利になりました」と、ユーザーが感じる「便利になった」の間には、大きな溝があります。
UXとは、機能の追加ではありません。データ統合でもありません。CRMの成功でもありません。
ユーザーが迷わず、不安なく、目的を達成できる状態を作ることです。
そしてその視点を失った時、どれだけ立派な戦略であっても、ユーザーからは「改悪だった」と評価されてしまうことがあります。
ユーザーファーストとは、ユーザーの声を聞くことだけではありません。
今回の事象を通じて改めて、ユーザーがどのような体験をしているのかを想像し続けることの大切さを痛感しました。