その「サイト」は誰のため?企業都合のWebサイトが使いにくくなる理由
Webサイトは企業が費用を出して作り、企業が所有・運営するものです。
しかし、実際にサイトを操作し、情報を読み、他社と比較して、問い合わせや購入を決めるのはユーザーです。採用サイトであれば、求人に応募するか、最終的に入社するかを決めるのもユーザーです。
にもかかわらず、Webサイトの制作現場では、ユーザーよりも企業側の事情を中心に、サイトの構成や掲載内容が決められることがあります。
社内の組織構造、各部署からの要望、経営層の好み、承認を得やすい表現。こうした事情が積み重なった結果、情報はたくさん載っているのに必要なものが見つからない、機能は豊富なのに使いにくいサイトが生まれます。
Web業界での経験が10年を超え、さまざまなサイトの制作や運用に関わる中で、私はあらためて考えるようになりました。
その「サイト」は、本当は誰のためのものなのでしょうか。
この記事でわかること
- Webサイトは企業が所有・運営するが、ユーザーが利用し判断する
- 企業都合で作られたWebサイトは情報過多で使いにくくなる
- 社内の組織構造をそのままサイト構造にすると使いにくくなる
- ユーザー目線で情報を整理し、提示することが重要
- ユーザーファーストなWebサイトは企業の成果と両立する
- 企業側の論理だけではなく、ユーザーの体験を考えることが重要
企業都合で作られたWebサイトが使いにくくなる理由
サイト制作の現場では、「ユーザーにとって分かりやすいサイトにしたい」という言葉をよく耳にします。
ところが、実際に掲載する情報やデザインを決める段階になると、判断の基準が少しずつ変わっていくことがあります。
「この事業をもっと目立たせたい」
「この部署の情報も追加してほしい」
「社長がこのデザインを気に入っている」
「この言い方なら社内承認を通しやすい」
「問い合わせを減らすために、説明をすべて書いておきたい」
これらは、企業側から見れば、それぞれ理由のある要望です。
しかし、個別の要望をそのまま積み重ねていくと、いつの間にかユーザーの目的が置き去りになります。
企業が伝えたい情報は増えているのに、ユーザーが知りたい情報は見つけにくい。企業側では整理されているつもりでも、初めてサイトを訪れた人には、どこを見ればよいのか分からない。
企業にとって都合のよいサイトと、ユーザーにとって使いやすいサイトは、必ずしも同じではありません。
社内の組織構造を、そのままサイト構造にしていないか
企業都合がサイトに表れやすい例のひとつが、社内の組織構造をそのままWebサイトの構造にしてしまうことです。
事業部ごとにメニューを分けたり、社内の商品分類をそのままカテゴリー名として使用したり、担当部署ごとにページを増やしたりするケースです。
社内の人にとっては、どの部署が何を担当しているか分かっているため、不自然には感じないかもしれません。
しかし、ユーザーはその企業の組織図を知りません。
どの部署が自分の課題に対応しているのか、社内でどのようにサービスが分類されているのかを理解してからでなければ、必要な情報にたどり着けない状態になってしまいます。
ユーザーは、その会社について勉強するためにサイトを訪れているとは限りません。
自分の悩みを解決できるのか。目的に合った商品やサービスがあるのか。信頼して相談できる会社なのか。それを判断するために訪れています。
企業の内部構造を理解しないと使えないサイトは、利用者に余計な負担をかけているとも言えます。
「GitHubを日本企業が作ったら」に見る、情報過多な画面設計
最SNSで、「GitHubを日本企業が開発したら」という趣旨の画像を見かけました。
本来のGitHubとは大きく異なり、画面には、お知らせ、申請状況、承認フロー、担当者、関連帳票、ToDo、ショートカットなどが所狭しと並んでいます。
もちろん、風刺として誇張された画像です。
それでも、日本企業の業務システムや会員サイトなどを使った経験がある人なら、どこか見覚えがあると感じるのではないでしょうか。
画面上に置かれた一つひとつの要素には、おそらく、それぞれの理由があります。
- 問い合わせを減らしたい。
- 注意事項を読んでほしい。
- 現在の進捗を分かるようにしたい。
- 関連する機能へすぐ移動できるようにしたい。
一つずつ見れば、どれも間違ってはいません。むしろ、利用者を困らせないための善意や、業務上の必要性から追加されたものもあるでしょう。
しかし、必要そうなものをすべて一画面に足した結果、ユーザーがその画面を開いた本来の目的が埋もれています。
これは、ユーザーに必要な情報を提供しているというより、企業が管理したい情報や業務フローを、ユーザーの画面にそのまま展開している状態ではないでしょうか。
部署ごとの要望を足すだけでは、分かりやすいサイトにならない
使いにくいWebサイトは、誰か一人がユーザーを軽視した結果とは限りません。
- 営業担当者は、問い合わせにつながるボタンを目立たせたい。
- 法務担当者は、注意事項を漏れなく掲載したい。
- 経営層は、企業理念や自社の強みを伝えたい。
- サポート担当者は、問い合わせの前にFAQを読んでほしい。
- 運用担当者は、更新や管理をしやすくしたい。
それぞれの立場から見れば、どれも正しい要望です。
ただし、各担当者の正しさをすべて採用しても、ユーザーにとって分かりやすいサイトになるとは限りません。
むしろ、各部署がそれぞれの責任を果たそうとした結果、誰もサイト全体のユーザー体験に責任を持たなくなることがあります。
Webサイトの制作や改善には、個別の要望をそのまま反映するのではなく、全体を見ながら優先順位を整理する役割が必要です。
- この情報は、本当に今、このページに必要なのか。
- ユーザーは何をするために、この画面を開くのか。
- その要素を追加することで、重要な情報が埋もれないか。
企業側の合理性を積み重ねても、ユーザーにとって合理的なサイトになるとは限りません。
Webサイトに情報を詰め込みすぎると、必要な情報が見つからない
企業側は、情報を削ることに不安を感じやすいものです。
- あとで必要になるかもしれない。
- 掲載しないと問い合わせが来るかもしれない。
- 説明不足だと思われるかもしれない。
- 関係部署から載せてほしいと言われている。
こうした事情から、「ひとまず全部載せておこう」という判断になりがちです。
しかし、ユーザーにとって重要なのは、情報量の多さではありません。今の自分に必要な情報を、迷わず見つけられることです。
たくさん書いてあるから親切とは限りません。すべての機能が最初から見えているから使いやすいとも限りません。
情報量が増えれば、それだけ判断に必要な時間も増えます。重要な情報と補足情報の区別がなければ、ユーザーはすべてを同じ重さで確認しなければなりません。
情報に優先順位をつけ、必要なタイミングで、理解しやすい形にして提示する。最初から見せるもの、操作に応じて見せるもの、別のページに分けるものを判断することも、情報設計の一部です。
「載せるか、載せないか」だけではなく、「いつ、どのように見せるか」を考える必要があります。
ユーザーの意思決定に必要な情報を提供できているか
私はこの問題を、単に「使いにくいサイトは離脱される」「分かりにくいとコンバージョンしない」という話だけではないと考えています。
企業とユーザーの間には、最初から情報格差があります。
企業は、商品やサービスの特徴だけでなく、弱点や制約、契約後に発生する負担、実際の運用方法まで詳しく知っています。採用であれば、入社後の仕事内容や働き方、評価のされ方、組織内の課題なども把握しています。
しかしユーザーは、企業が公開した限られた情報をもとに、問い合わせるか、購入するか、応募するかを判断しなければなりません。
その状態で、企業にとって都合のよい情報だけを目立たせ、判断に必要な情報を十分に渡さないまま行動を促す。それは、少しアンフェアではないでしょうか。
ユーザーに選んでもらいたいのであれば、納得して選ぶための材料も渡す必要があります。
メリットだけではなく、誰に向いているのか。どのような制約があるのか。利用を始めたあとに何が起こるのか。料金や支援範囲はどこまでなのか。
問い合わせをしなければ基本的な条件すら分からないサイトでは、ユーザーは適切に比較できません。
短期的な問い合わせ数を増やすために情報を隠すよりも、判断材料をきちんと提示し、納得した人に選んでもらう。そのほうが、企業とユーザーの双方にとって、長期的にはよい結果につながるはずです。
ユーザーファーストなWebサイトは、企業の成果とも両立する
ユーザーファーストという言葉は、ときどき「ユーザーの要望をすべて受け入れること」のように捉えられます。
しかし、ユーザーファーストは、企業の利益や目的を諦めることではありません。
企業には、商品を売りたい、問い合わせを増やしたい、採用を成功させたい、ブランドの魅力を伝えたいといった目的があります。
その目的を、ユーザーが理解し、比較し、納得して選べる形へ翻訳することが、Webサイトの役割ではないでしょうか。
- 企業が言いたいことをそのまま並べるのではなく、ユーザーが必要とする順番に組み替える。
- 社内で使われている言葉を、初めて訪れた人にも伝わる言葉へ置き換える。
- 行動を無理に急かすのではなく、不安や疑問を解消したうえで、問い合わせや購入を選べる状態をつくる。
ユーザーが必要な情報を見つけやすくなれば、問い合わせ前の不安や認識のずれも減ります。結果として、企業側も、ミスマッチの少ない問い合わせや応募を得やすくなります。
ユーザーファーストとは、ユーザーの言いなりになることではありません。
ユーザーを、企業が動かす対象ではなく、自分で比較し、判断する意思決定の主体として尊重することだと思います。
作る側の論理だけで、本当に選ばれ続けるのか
市場が成長し、商品を作れば売れた時代には、企業が一方的に商品や情報を提示する方法でも成立しやすかったのかもしれません。
しかし現在は、ユーザーが複数の商品やサービスを簡単に比較できます。
公式サイトだけでなく、レビューやSNS、比較記事、第三者の評価なども確認したうえで、自分に合ったものを選びます。
企業が「何を作るか」「何を売るか」だけでなく、ユーザーが「どのように選ぶか」を考えなければ、選ばれ続けることは難しくなっています。
日本企業がソフトウェアやサービスの分野で海外企業に後れを取った理由は、もちろん一つではありません。経営判断、投資、人材、産業構造など、さまざまな要因があります。
ただ、作る側や売る側の論理を優先し、実際に使う人の体験を後回しにしてきた姿勢も、まったく無関係ではないように思います。
機能をたくさん搭載していることと、使いやすいことは別です。
情報をすべて載せていることと、必要な内容が伝わることも別です。
企業側が「これだけ用意したのだから使えるはず」と考えるのではなく、ユーザーがどのような状況で、何を目的に利用するのかを起点に設計する必要があります。
ユーザー目線のサイト制作で確認したいこと
サイトを制作・改善するときは、ページ数やデザインを決める前に、次のような点を確認する必要があります。
- このサイトを訪れるユーザーは、何を目的にしているか
- ユーザーが最初に知りたい情報は何か
- 社内用語や独自の分類を、そのまま使っていないか
- 社内の組織構造が、サイト構造に表れすぎていないか
- 各部署の要望を足しただけの画面になっていないか
- 情報の優先順位が分かるようになっているか
- 比較や意思決定に必要な条件を提示できているか
- 問い合わせをしなければ分からない情報が多すぎないか
- ユーザーが次に何をすればよいか、迷わず理解できるか
すべての情報を削ればよいわけではありません。
大切なのは、企業側の要望をそのまま画面に並べるのではなく、ユーザーの目的に合わせて整理し直すことです。
「自社が何を伝えたいか」と同時に、「ユーザーは何を知れば判断できるか」を考える必要があります。
そのWebサイトは、誰のためのものなのか
Webサイトは、企業が費用を出し、企業が所有・運営するものです。ですが、実際に使い、比較し、判断し、行動するのはユーザーです。
だからこそ、Webサイトは企業のものではあっても、企業だけのためのものではありません。
企業が伝えたいことと、ユーザーが知りたいこと。
企業が達成したい目的と、ユーザーが納得して選ぶために必要な情報。
その両方をつなぐことが、Webサイトを設計する意味なのだと思います。
サイトに新しい情報や機能を追加する前に、あるいは社内から出た要望をそのまま反映する前に、一度立ち止まって考えてみる。
その「サイト」は、いったい誰のためのものなのでしょうか。