ユーザーファーストの正しい理解とは?制作現場とビジネス側のギャップ
「ユーザーファースト」という言葉は、いまやあらゆる現場で当たり前のように使われている。 プロダクト開発、Web制作、マーケティング、経営戦略……。あらゆる意思決定の場で、「これはユーザーのためになるか?」という問いが投げかけられるようになったことは、ある意味で健全な変化とも言える。
しかしその一方で、現場にいるとときおり違和感を覚える瞬間がある。
「これ、ユーザーファーストじゃないですよね?」
そうした声が、制作サイドから、あるいは経営層から聞こえてくるのだ。 どちらの言い分にも理があるように見えるが、それぞれが指す“ユーザー”のイメージや、“ファースト”の意味合いには微妙なズレがある。
この記事では、「ユーザーファーストとは何か?」という問いをあらためて見つめ直し、現場と経営、制作と発注のあいだに横たわる認識のギャップを紐解いていく。
目次
現場で語られる“ユーザーファースト”の視点
制作サイドにおけるユーザー像
制作現場、とくにデザイナーやエンジニアにとってのユーザーは、
- 実際にプロダクトやサービスに触れる人
- 操作性や視認性を重視する人
- コンバージョンより“使いやすさ”を求める人
として具体的かつ現実的に存在している。
そのため、ユーザビリティテストやヒューリスティック分析、導線設計などを通じて「迷わせない・ストレスを与えない・目的達成に最短距離で導く」ことが“ユーザーファースト”として捉えられやすい。
理想は常にアップデートされる
UIの一貫性や読みやすいマイクロコピー、視線の動きを意識したレイアウト。こうした細部の積み重ねが「気持ちよく使える体験」を支えている。
このように、制作側の“ユーザーファースト”は「プロダクト利用時の体験」に強く結びついているのが特徴だ。
経営や発注サイドが考える“ユーザーファースト”
その“ユーザー”は誰か?
一方で、発注側や経営層が掲げるユーザーファーストには、「売上」「認知」「リピート率」といった成果指標が密接に絡んでくる。
たとえば、
- 「ユーザーアンケートで〇〇という要望が多かったので」
- 「口コミで〇〇と書かれていたから修正してほしい」
- 「営業担当が言うには、これがあったほうが安心感につながる」
といった“間接的なユーザーの声”を根拠に、施策が決定されることも少なくない。
売上重視とユーザー志向の境界線
このとき、“ユーザーの声”は往々にして「買ってくれる人」「決済者」「不満を言うクレーマー的存在」など、ビジネスにおける影響力が強い層へと偏る。
つまり「ユーザーのため」という言葉の裏には、
- ユーザーの“ため”というより“声”への忖度
- ユーザーの“理想”よりも“現実的に売れるか”
- 本当に使っている人よりも“購買決定者”優先
といった視点が潜んでいる。
発注者の意図が必ずしも悪いわけではない。ただしそれは「ビジネスファースト」の文脈で語られている“ユーザーファースト”であり、制作側とは観測点が異なる。
制作現場で感じるズレの実例
見えない圧力としての“ユーザーファースト”
「このコンテンツをトップに上げてください」 「この文言だとわかりづらいので、もっと具体的に説明を追加してください」
一見、ユーザーのための修正に見えるこれらの依頼。しかし、その背後には「社内の部署」「上層部の意向」「営業戦略」が隠れていることが少なくない。
ユーザーが誰か、想像しているか?
制作側はユーザーを“体験する存在”と捉え、発注側は“購買する存在”と捉える。
この違いが、
- どこに何を配置するか
- どこまで説明するか
- どこで行動を促すか
といった、UI/UX上の判断に大きなズレを生じさせる。
本当の“ユーザーファースト”とは何か
代弁者になるのではなく、検証者になる
「こうすればユーザーは喜ぶはずだ」という思い込みではなく、
- 行動データ
- ヒートマップ
- 離脱分析
- 定性インタビュー
などを通じて「ユーザーがどう感じたか・どう行動したか」に耳を傾け続けること。
言葉に酔わず、問い続ける姿勢
ユーザーファーストとは、単なるスローガンではなくプロセスである。絶対的な正解があるわけではない。
だからこそ、私たちは「これは本当にユーザーのためか?」という問いを、都度立ち返りながら仮説と検証を繰り返すしかない。
おわりに:言葉より、誠実な観察を
“ユーザーファースト”という言葉は、扱いやすく、そして危うい。誰かの都合を“ユーザーのため”とすり替えることもできてしまうからだ。
大切なのは、その施策が「ユーザーにとって本当に良い未来につながるのか?」という視点を忘れないこと。
ビジネスと制作、発注と現場。その間にある見えないズレを意識しながら、それでも問いを持ち続けることこそが、最も誠実な“ユーザーファースト”ではないだろうか。