ユーザーとビジネスの間で揺れる話 カスタマーUX編
サイトやアプリのゴールを「購入」や「申し込み」だけだと思っている方は結構いらっしゃるかと思います。
実はそこから先にこそ、本当のユーザー体験(UX)の勝負どころがあります。商品やサービスを手にしたあとに起きる「問い合わせ」「トラブル対応」「継続利用」──これらはすべてカスタマーUXの一部であり、ブランド体験そのものです。
でも現実には、この“利用後の体験”は制作や設計の現場で軽視されがちです。プロジェクトの初期段階ではほとんど議題に上がらず、「とりあえずFAQを置こう」「チャットボットを入れればいい」といった“あとづけ対応”で終わるケースも少なくありません。
ユーザーの「助けてほしい」にどう応えるか
問い合わせフォームが見つからない。連絡方法が限られている。FAQはあるけれど、肝心な疑問には答えていない──。こうした小さなストレスは、じわじわとユーザーの信頼を削ります。
実は、顧客の不満はサービス自体よりも「困ったときにちゃんと対応してもらえるか」で大きく変わります。「自分は大事にされている」と感じられるかどうかが、継続利用や解約の分かれ道になるのです。
ビジネスの視点とユーザーの視点のズレ
一方で、カスタマー対応にはコストがかかります。売上にすぐ直結しないため、「できるだけ自動化したい」「なるべく工数を減らしたい」と考えるビジネスサイドの気持ちも理解できます。
ただ、その結果として「FAQを設置すること自体」が目的になってしまい、ユーザーが知りたい情報にたどり着けない状態になるのは本末転倒です。「結局、電話番号が見つからない」「問い合わせてもテンプレ回答しかこない」──これではブランドへの信頼も失われてしまいます。
本当に必要なのは“問い合わせ不要”の設計
ユーザー満足度を本気で高めるなら、「困ったときに連絡しやすい導線」だけでなく、「そもそも問い合わせしなくて済む状態」を目指すことが大切です。
- エラーメッセージを具体的でわかりやすくする
- 設定画面の構成を整理し、迷わないUIにする
- 選択肢を減らして判断をシンプルにする
こうした“迷いを生まない設計”こそ、カスタマーUXの本質です。
実際のプロジェクト事例
以前担当したECサイトでは、購入後の問い合わせがとても多く、「サポート負荷を減らしたい」という依頼がありました。分析してみると、半分以上が「発送状況の確認」と「返品方法の問い合わせ」でした。
そこで、マイページに配送状況をリアルタイムで確認できる機能を追加し、返品方法の案内を注文履歴ページにも表示するように改善しました。結果、問い合わせ件数は大幅に減少。サポートチームの負担も減り、ユーザーからの満足度評価も上がりました。
小さな改善でも効果は大きい
必ずしも高額なチャットボットやAIサポートを導入する必要はありません。たとえば、
- FAQの見出しをわかりやすく書き直す
- サポートページの検索機能を改善する
- 問い合わせページまでのクリック数を減らす
こうした“小さな改善”でも、ユーザーのストレスを減らし、ブランドへの好感度を上げることができます。
カスタマーUXは途中から始まっている
多くの人は「カスタマーUX=購入後の対応」と思いがちですが、実際はサービス利用中から始まっています。たとえば会員登録中にエラーが出たときの案内文や、使い方を説明するチュートリアルの分かりやすさも、立派なカスタマーUXの一部です。
つまり、「困ったときに助けてもらえる」という安心感を、利用開始直後から感じてもらえるかが大事なのです。
まとめ
カスタマーUXは目立たない部分だからこそ、そこに丁寧さがあるとサービス全体の印象が変わります。
「問い合わせやすい環境」と「問い合わせなくても済む設計」を両立できれば、ユーザーは安心し、長く使い続けてくれます。これからも、「不安にならない体験」を意識して設計していくことが、ブランドを育てる一番の近道だと感じています。