ユーザーとビジネスの間で揺れる話 導線設計編
Webデザインをしていると、「この位置に置けば数字は伸びそう」「でもユーザーの流れが崩れる…」そんなジレンマに何度も直面します。私も、CTA(Call To Action)の配置や導線設計で何度も手を止め、悩んできました。
よくある葛藤:「目立たせたい」けど「邪魔したくない」
クライアントから「ファーストビューに資料請求ボタンを大きく置いてほしい」と頼まれることは珍しくありません。
マーケティング的には正しい要望です。ただ、メッセージやビジュアルと合わない位置に置けば、ユーザーの視線や感情の流れを遮ってしまいます。
ユーザーが読み込んでいる最中に突然「押して」と迫ると、違和感やストレスを与えかねません。結果として離脱や信頼感の低下につながり、ページ全体の印象も損なわれます。
KPI重視がノイズになる瞬間
成果を上げるために取る施策はたくさんあります。
- CTAを増やす
- 離脱防止ポップアップを出す
- フォームを短くする
一見効果的に見えますが、やりすぎると「急かされている」「押し売りされている」という印象を与えます。特にスマホでは画面占有率が高くなり、閉じた瞬間に離脱されることも。
使う側なら経験はあるはずです。「え、ここで出てくるの?」と思うようなタイミングだったりもしますよね。こうしたユーザーのストレスは数字に表れにくく、気づいたときにはもう遅い場合もあります。
双方に「理由」を持たせる導線設計
ビジネス成果とユーザー体験、どちらにも意味を持たせるための工夫は欠かせません。
- CTAは画面下部に置き、スクロールに応じて自然に出現
- アニメーションは控えめにして、気づかせつつも主張しすぎない
- 「この位置に置いた理由」を説明できる状態にする
さらに、KPIに直結しない要素でも、ユーザーの安心感や判断材料になるなら残すべきです。ページ全体の流れに合わせ、必要な“間”や“余白”を確保することで、結果的に成果も安定します。
実例:押しすぎて失敗した採用サイト
以前、採用サイトのファーストビューに「今すぐ応募」ボタンを2つ設置したことがありました。応募数は増えましたが、面談辞退率が急上昇。調査すると、多くが内容を読まずに直感で応募していたことが判明しました。
構成を見直し、情報を読んだうえで応募に至る導線に変更すると、応募数は減ったものの、面談率・内定率が改善。「質の高い応募」が集まるようになりました。
この経験から、短期的な成果数だけで評価する危うさを痛感。UXは体験全体の質でこそ評価すべきだと強く感じました。
ユーザーに選ばせる“余白”をつくる
すべての導線をコントロールしようとせず、ユーザーに「自分で選べる」感覚を残すことも大切です。
- ナビゲーションに余裕を持たせ、比較検討しやすくする
- フォームはステップを分けて心理的負担を軽減
- 離脱ユーザーにも好印象を残す設計にする
効率的に誘導するだけでは、納得感や信頼感が削られます。遠回りに見えても、自分の意思で進める設計の方が満足度は高まりやすいのです。
おわりに:納得感のある導線を目指して
導線設計に「正解」はありません。常に迷いながら、仮説と検証を繰り返す日々です。
それでも、見せたい情報を一方的に押し出すのではなく、ユーザーがどう感じ、どう行動するかを丁寧に想像する──その積み重ねが、納得感と信頼を生むデザインにつながると信じています。