「工数をかけたくない」が、結果的に工数を増やしてしまう理由
「できるだけ工数をかけずに進めたいです。」
Web制作の現場では、このようなご相談をいただくことがあります。
もちろん、その考え方自体は間違いではありません。
制作側としても、無駄な工数はできるだけ減らしたいと考えていますし、限られた予算やスケジュールの中で最大限の成果を目指すことは、ごく自然なことです。
ただ、これまでさまざまなプロジェクトに携わる中で、一つ感じていることがあります。
それは、「工数を減らしたい」という意識が強いプロジェクトほど、結果的に工数が増えてしまうケースが少なくないということです。
この記事でわかること
- 「工数を減らすこと」と「考える時間を減らすこと」は異なる
- 制作プロジェクトでの認識のズレが工数増加の主な原因
- Webサイト制作前に目的や解決したい課題を整理する重要性
- 現状分析は不要なページや機能を防ぎ、手戻りを減らすために重要
- 要件整理は未来の修正工数を減らすための投資
- AIを活用しても要件整理が不十分な場合、制作の指示が困難

なぜ工数が増えてしまうのか
工数が増える原因は、制作そのものよりも、認識のズレにあることがほとんどです。
例えば、
- 「いい感じにお願いします」
- 「参考サイトと同じようなイメージで」
- 「細かいことは作りながら考えましょう」
このような形で制作がスタートすると、一見スピーディーに進んでいるように見えます。
しかし、実際には制作が進むにつれて、
「思っていたものと違う」
「やっぱりこの機能も欲しい」
「このページはいらなかった」
といった認識のズレが見つかり、修正や仕様変更が繰り返されます。
すると、制作側だけでなく、レビューを行うクライアント側の工数も増え、確認のための打ち合わせや調整も必要になります。
結果として、「工数を減らしたかった」はずのプロジェクトが、当初の想定よりも多くの時間とコストを要してしまうのです。

本当に削るべき工数とは
ここで一つ意識したいのは、「工数を減らすこと」と「考える時間を減らすこと」は同じではないということです。
削るべきなのは、
- 手戻り
- 認識のズレ
- 不要な修正
- 判断に迷う時間
であって、要件整理や認識合わせの時間ではありません。
制作前に30分かけて目的や優先順位を整理することで、その後に発生する数時間、あるいは数日分の修正を防げることは珍しくありません。
最初に少し立ち止まることは、決して遠回りではなく、結果的には最短ルートになることが多いのです。
「とりあえずサイトを作る」は危険
Webサイト制作のご相談では、
「コーポレートサイトをリニューアルしたい」
「サービスページを追加したい」
「採用サイトを作りたい」
というご要望をいただくことがあります。
それ自体は何も問題ないのですが、ただ、その前に確認したいことがあります。
「そのサイトで、何を解決したいのでしょうか。」
- お問い合わせを増やしたいのか。
- 採用応募を増やしたいのか。
- 既存のお客様への情報提供を充実させたいのか。
- ブランドイメージを刷新したいのか。
目的が違えば、必要な構成も、コンテンツも、デザインも、運用方法も変わります。
さらに一歩踏み込むと、「本当にWebサイトが最適な解決策なのか」を考えることも重要です。
例えば、サイトを新しく作るよりも、既存ページの改善だけで十分成果が出るケースもあります。
営業資料を見直した方が効果的な場合もありますし、CMSの入れ替えではなく、運用フローを整理した方が課題を解決できることもあります。
つまり、「サイトを作ること」は目的ではなく、数ある手段の一つなのです。
現状分析は、未来の工数を減らすための時間
私は制作に入る前に、できるだけ現状分析の時間を設けるようにしています。
例えば、
- 現在のサイトはどのような役割を果たしているのか
- アクセス解析では何が見えているのか
- 既存コンテンツは活用できないか
- 本当の課題はどこにあるのか
- 運用体制は継続できるものか
といった点を確認します。
一見すると、この工程は「工数が増える作業」に見えるかもしれません。
しかし、私の中ではまったく逆の考え方です。
現状分析は、不要なページを作らないための時間であり、不要な機能を実装しないための時間であり、将来の手戻りを防ぐための時間です。
作ることを前提に考えるのではなく、「何を作らなくていいのか」を明確にするための工程でもあります。
要件整理は、未来への投資
要件整理というと、「仕様書を作ること」をイメージされることがあります。しかし、実際にはもっと広い役割があります。
誰のために作るのか。
何を成果とするのか。
何を優先し、何を後回しにするのか。
そして、関係者全員が同じゴールを見て進めるための共通認識を作ること。
この土台があるからこそ、プロジェクトは迷わず進み、判断基準もぶれにくくなります。
要件整理は、書類を増やすための作業ではありません。未来の修正工数を減らすための投資だと考えています。
AIがあっても、要件整理はなくならない
最近では、
「AIを使うと、早く作れるんですよね?」
と聞かれることも増えました。
確かに、AIによって制作スピードは大きく向上しています。
私自身も、設計の壁打ちや実装、ドキュメント作成など、日々AIを活用しています。
ただ、一つ誤解されやすいことがあります。
AIは、要件が曖昧な状態を魔法のように解決してくれるわけではありません。AIが力を発揮するのは、「何を作るか」がある程度整理されているときです。
例えば、
- 誰に向けたページなのか
- 何を達成したいのか
- 必要な機能は何か
- どこまでを今回のスコープにするのか
こうした前提が曖昧なままでは、AIに指示を出すためのプロンプト自体を作ることができません。そして、この前提の多くは、クライアントしか知り得ない情報です。
「どのような課題を解決したいのか」「誰に届けたいのか」「社内ではどのような議論があったのか」といった背景は、外部の制作会社やAIだけで推測できるものではありません。
だからこそ、制作を始める前の対話や要件整理が重要になります。
つまり、要件整理ができていないプロジェクトは、人への指示だけでなく、AIへの指示も難しいのです。
AIによって「作る」工程は速くなりましたが、「何を作るべきか」を整理する工程の重要性は、以前よりもむしろ高まっているように感じています。
おわりに
工数を減らすことは、とても大切です。
だからこそ、削る場所を間違えないことが重要だと感じています。
制作前の現状分析や要件整理は、一見すると時間がかかるように見えます。
しかし、その時間があるからこそ、手戻りが減り、認識が揃い、本当に必要なものだけを作ることができます。
私は「Webサイトを作ること」そのものよりも、「課題を整理し、最適な解決策を一緒に考えること」を大切にしています。
場合によっては、「今回はサイトを作り直さなくても大丈夫ですね」とお伝えすることもあります。
目的はWebサイトを増やすことではなく、事業や組織が抱える課題を解決すること。
そのために、現状分析と要件整理という、一見目立たない工程を何よりも大切にしています。