私が職種横断型ハイブリッド人材になれた理由
職種の枠に収まれず悩む日々
Web業界に入って以来、「自分はいったい何者なんだろう?」と考え続けてきました。デザインだけでもない、コーディングだけでもない。CMSも扱うし、コンテンツ構造も考えるし、運用・改善や分析にも手を出す。どの職種にも“真ん中”には立てないのに、どれもやらないと仕事が進まない。
そんな状況が続くうちに、気づけば役割がどんどん横に広がっていて、肩書きだけが置いてけぼりになる——そんな違和感とずっと付き合ってきました。
この記事でわかること
- Web業界では職種のタグで人を評価する制約があり、横断的な人材が評価されにくい
- 横断的な働き方に向いている人は、役割が決まっていない環境で空白を埋めることが得意
- ハイブリッド型人材は俯瞰視点が強く、問題の本質を見極めやすい
- 採用構造が単一職種を前提としているため、横断的な役割が評価されにくい
- 肩書きや職務経歴は領域ではなく役割で示し、経歴は縦のストーリーで表現する
- 横断型の人材は現在価値を増しており、自らのキャリアをつなげる力として言語化することが重要
Web業界と採用市場の構造的な限界(職種のタグ問題)
Web業界は、長く「職種のタグ」で人を評価する仕組みが中心です。
- デザイナー
- コーダー / フロントエンド
- CMS担当
- ディレクター
分業の前提で作られた構造なので、横断して動く人材は評価が難しくなりがちです。実際、求人票では単職種が前提で、「横断型の役割」を想定したポジションはほとんど存在しません。
そのため、実務で価値がある領域(情報設計、要件整理、改善提案、分析×UI改善など)が、採用構造では“見えないまま”になり、ミスマッチが起こり続けています。
ハイブリッド化していった理由
会社員時代に芽生えていた「横断の感覚」
私が横断型の働き方に向いているのかもしれない、と最初に感じたのは会社員時代でした。デザインか、コーディングか、どちらかに軸足を置くというより、両方の視点がないと仕事の本質に届かないように思えたからです。
「どちらかだけを極める」よりも、「両方を理解して橋渡しする方が強い」という感覚が、ごく自然にありました。さらに、マーケティングや分析を学ぶほど、数字の理解がデザインにも技術にも活かせると気づき、領域をまたぐ働き方が自分の中で腑に落ちていきました。
こうした“横断の芽”のようなものが、会社員期にすでに育ちはじめていたと思います。
契約形態の変化と、中規模事業会社で広がった役割
会社員から派遣として現場に入り、その後、関わり方を業務委託(フリーランス)へ切り替えたことで、仕事内容の幅は一気に広がりました。ただ、実は“幅の広さ”は派遣時代からすでに芽生えていたものでもありました。
派遣として参画していた頃から、更新業務だけでなく、構成の整理や軽微な実装、改善案の検討など、担当範囲を自然と広げて任されることが多くありました。役割が固定されない現場だったからこそ、必要なタスクを拾い上げる動きが求められ、それが結果的に「この人なら任せられる」という信頼形成につながり、業務委託として継続して声をかけてもらえる基盤になったと感じています。
その延長線上にあったのが、中規模事業会社での経験です。WordPressベースのサイト運用を支えるなかで、以下のような役割を同時並行で担いました。
- 情報設計の見直し
- Figmaでの構成整理
- テーマ改修などの実装
- 更新フロー改善やGA4の確認
設計・実装・運用が分断されていない環境では、どれか1つだけでは改善が成立しません。派遣時代から続く“役割をまたいで拾い上げる姿勢”がそのまま活き、必要なタスクを自分で見つけて全体を整える――この一連の流れが、横断型としての基礎体力を確実に育ててくれたと感じています。
制作会社での経験:HubSpot × 技術 × 提案を統合する
制作会社では、当初は“技術アドバイザー的な立ち位置”として声をかけてもらったのが始まりでした。最初は、実装寄りの技術相談に乗る程度だったのですが、プロジェクトが進むにつれて求められる役割がどんどん広がっていきました。
- HubSpotモジュール開発の要件定義
- 要件定義に加えて、仕様設計まで担当
- さらに設計だけでなく実装まで一気通貫で対応
- 若手ディレクターの進行管理サポート
- マーケ職向けのWeb基礎勉強会の開催
最初は限定的だった役割が、気づけば“設計 × 実装 × 運用 × 教育”へと横に広がり、プロジェクトの基盤部分を支えるような動きに変わっていきました。
分業が明確ではない環境だからこそ、空白になっている領域を自ら埋め、必要な役割を少しずつ担っていく。その積み重ねが、結果として“プロジェクト全体を俯瞰しながら動く視点”を強く鍛えることにつながりました。
共通していたのは「役割が決まっていない環境」
どの現場にも共通していたのは、単に役割がカッチリ決まっていなかったというだけではありませんでした。“やれる人がいないまま仕事が積み上がり、現場が取っ散らかってしまっている”という非効率な状態が生まれていることも多く、その空白を誰かが埋めないと前に進まない――そんな状況が続いていました。
デザインと技術の境界、実装と運用の境界、企画と改善の境界。そのどれもが曖昧なまま進んでしまうと、プロジェクト全体の歯車が噛み合わなくなることがあります。そこで“間に落ちたタスク”を拾い、整理し、つなぎ直す役割を担うことで、自分の強みが自然と形成されていったのだと思います。
こうした混乱と調整の経験の積み重ねが、職種横断型としての今の働き方へとつながっています。
ハイブリッド型人材に備わりやすい特徴
- 構造的に考える癖がつく:情報設計・UI・実装・運用の関係性を整理しながら進めるようになる
- 分業の隙間を埋めるのが得意になる:要件定義、仕様整理、運用設計などの“間”の役割を担いやすい
- 俯瞰視点が強い:全体の目的から逆算して動く習慣が身につく
- 問題の本質が見えやすい:単一スキルの視点では分からないボトルネックに気づける
それでも評価されにくい理由(市場構造の話)
- 採用構造が単職種前提
- 求人票が「分業モデル」を前提にしている
- 検索性の都合で“タグ化された職種”が基準になる
- 横断的な役割は「職種」として定義されていない
結果、実務で価値が高いにも関わらず“採用枠”が存在しないという矛盾が起こります。
どう価値を伝えるか(肩書き・職務経歴の見せ方)
肩書きは「領域」ではなく「役割」で書く
- Webディレクター / UIデザイン / フロント実装 / CMS最適化
- 情報設計 × 技術 × 運用まで伴走するWebパートナー
経歴は“横”ではなく“縦のストーリー”で書く
課題 → 必要だった役割 → その役割をどう埋めたか → 成果
実績は「因果」でまとめる
- なぜその判断をした?
- どんなデータを見た?
- どう改善につながった?
同じように悩む人へ
肩書きに迷う時期は、自分の可能性が1つの箱に収まらないというサインでもあります。
分業が緩やかになり、役割が流動的になっている今、横断型の人材は確実に価値を増しています。自分のキャリアを「広すぎる」と捉えるのではなく、「つなげられる力」として丁寧に言語化すれば、必ず評価される場があります。
この記事が、同じように“自分の立ち位置”に悩んでいる誰かの背中をそっと押せるものになっていれば嬉しいです。