組織に外部から関わって、最初にぶつかる「属人化」という壁
組織に外部として関わる中で、何度も直面してきたのが「属人化」の問題です。
特定の人がいないと判断できない。あの人が休むと業務が止まる。引き継ぎのたびに、毎回ゼロから説明が必要になる。こうした状態は、立ち上げ期に限らず、組織のフェーズや規模を問わず発生します。
その中でも、立ち上げ期や拡大期の組織では、この属人化が特に見えにくい形で蓄積されていくことが多い。スピードがあり、意思決定が早い分、「今は回っているから大丈夫」という感覚が、問題を覆い隠してしまうからです。
外から入った立場だからこそ、最初に見えるのはスピードそのものではなく、そのスピードがどこに歪みを溜め込んでいるかでした。
- 判断の背景がどこにも残っていない
- 特定の人しか知らない前提が多い
- 「今は忙しいから」と後回しにされた言語化
その場では問題にならなくても、あとから関わる人にとっては、確実に引っかかるポイントです。
属人化の問題は、誰かの能力不足ではなく、構造の問題です。本記事では、外部から後始末や整理を担ってきた立場として見えてきた、属人化が生まれ、放置され、組織を苦しくしていく過程について整理していきます。
この記事でわかること
- 組織における「属人化」の問題は、特定の人に依存して業務が停滞することが起こりやすい。
- 属人化は組織の規模やフェーズに関わらず発生し、特に立ち上げ期や拡大期では見えにくい形で蓄積される。
- 属人化は情報の持ち方が人に依存している構造の問題であり、組織内の口頭文化が強まる。
- 仕組み化は、情報の共有や業務の効率性を高めるために重要であり、組織のスピードと安定性につながる。
- 属人化は、外部から入る立場ほど明確に感じられ、情報の動線が整っていないと問題が生じる。
- 属人化を解消するためには、人が抜けても業務が止まらない仕組みづくりと情報の流れを重視することが重要である。
少人数だからこそ、口頭文化が強くなる
組織の規模やフェーズを問わず、特に人が少ない状態では、次のような状況をよく目にします。
- 「直接話した方が早い」が常識になっている
- チャットで流せば十分、という感覚がある
- 誰が何を知っているか、だいたい把握できている
内側にいると回っているように見えますし、実際、その段階では大きな問題は起きません。
ただ、外部から途中参加すると、こう感じます。
「これ、どこまでが共有されている前提なんだろう?」
チームが10人前後を超えたあたりから、この感覚は一気に表面化します。
新しく入った人が、
- 何を
- 誰に
- どのタイミングで
共有すればいいのか分からず、動きが止まる。
そして少し経つと、
- 「それ聞いていない」
- 「どこに書いてありますか?」
というやりとりが増えていきます。
これは能力の問題ではなく、情報の持ち方が人に依存している構造の問題です。
口頭文化は、立ち上げ期の武器である一方、拡大期に入るとリスクにもなります。
属人化は、後から入った人ほど強く実感する
外部から入ると、属人化しているポイントは驚くほど分かりやすいです。
- この資料は、誰の頭の中を前提に作られているのか
- なぜこの手順になっているのか
- 判断の根拠はどこにあるのか
それが説明されず、「そういうものだから」で流されているケースも少なくありません。
内側に長くいる人ほど当たり前になっていて、疑問にすらならない。
でも、後から入った側は、毎回そこに立ち止まります。
属人化は、最初は効率的に見えます。
ただ、組織が人に依存して動いている限り、どこかで必ず限界が来ます。
本来、仕組みは人を縛るためのものではありません。
「誰がやっても、最低限同じ判断ができる状態」を作るためのものです。
判断の経緯や背景が残っていない組織ほど、
- 分かっている人に業務が集中し
- その人が抜けると回らなくなり
- 引き継ぎのたびに説明コストが発生する
という状態に陥りやすくなります。
仕組み化は、現場を楽にするためにある
「仕組みを作ると動きが遅くなる」という声も、現場でよく聞きます。
ただ、外から入って整理する立場としては、その逆だと感じることが多いです。
ここで言う「仕組み化」は、ルールを増やすことではありません。再現性のある流れを、最低限整えることです。
例えば、
- 決定フローを簡単に言語化する
- 報告や共有のフォーマットを揃える
- 情報の置き場所を決める
これだけでも、確認や判断にかかる時間は確実に減ります。
属人化していた作業を「誰でも触れる形」に変えることで、スピードは一時的に落ちるどころか、長期的には安定します。
外から入って整備する役割をしていると、「もっと早くこれがあれば、現場は楽だっただろうな」と感じる場面が何度もあります。
100人を想定した設計は、10人の今を助ける
「まだ人数が少ないから、そこまでやらなくていい」
そう言われる場面もあります。
ただ、後から入る立場としては、10人の段階でどれだけ整っているかが、その後のしんどさを大きく左右するように感じます。
- 新しく入った人が、どれくらい早く動けるか
- 既存メンバーのフォロー負担がどれだけ減るか
- 誰が何を決めるのかが、どれくらい明確か
これらは、仕組みの有無で大きく変わります。
人が増えてから慌てて整えるよりも、100人を想定した設計を、10人のうちに少しだけ仕込んでおく。
それだけで、現場の安心感はまったく違います。
人ではなく、情報の動線を見る
外部から関わる立場として、常に意識しているのは、「誰が優秀か」ではなく、情報がどう流れているかです。
人は入れ替わりますが、情報は残せます。
- 誰かが休んでも、他の人がカバーできる
- 業務を安心して任せられる
- 特定の人に依存しない
こうした状態は、情報の動線が整っていないと実現しません。
「自分がいないと回らない組織」ではなく、「誰がいても機能する組織」を作ること。
それは冷たい仕組みではなく、人を守るための設計だと感じています。
まとめ
属人化は、怠慢やスキル不足の結果として生まれるものではありません。むしろ、多くの場合、その場その場で最善を尽くしてきた結果として、静かに積み重なっていきます。
外部から関わり、あとからその整理や後始末を担う立場になると、属人化によって疲弊していくのは、決して「できていない人」ではなく、分かっている人、抱え込んできた人であることがよく分かります。
仕組み化は、自由を奪うためのものではありません。属人化によって生まれる無理を、構造として引き受け直すための手段です。
誰かが限界を迎える前に。誰かが抜けた瞬間に業務が止まる前に。外から入る人が、毎回同じところで立ち止まらずに済むように。
属人化を「個人の問題」にしないこと。そのために、情報と判断の流れを残していくこと。それが、組織のスピードと創造性を、長く支える土台になると私は思っています。