“提案力”の正体を考える― Web制作者に求められるビジネス視点と信頼構築の方法
Web制作の現場では、クライアントから「もっと提案してほしい」と言われることがよくあります。ですが、その“提案”とは一体何を指しているのでしょうか。デザインの改善や構成の見直し、あるいはコンテンツの方向性など、さまざまな意味に受け取られる言葉だと思います。
多くの制作者が「自分なりの意見を伝えること」が提案だと考えがちですが、実際にはもう少し深い意味があるのではないでしょうか。フリーランスやディレクターとしてさまざまな現場に関わってきた経験をもとに、“提案力”の本質と、そこに必要なビジネス視点について考えます。
この記事でわかること
- 提案は「目的に対する手段」であり、デザインや構成の変更を目的に紐付けて説明することが重要。
- 制作者が陥りやすいのは主観的な提案であり、裏付けのある提案が信頼につながる。
- ビジネス視点を持つことは、制作をゴールにせず、成果や目標に向けて提案を行うこと。
- 提案力は内容だけでなく伝え方も重要であり、相手の立場や理解度を考慮して伝える工夫が必要。
- 提案力はセンスや発想力よりも観察力、理解力、相手への思いやりから生まれる。
- 提案は信頼を築くコミュニケーションであり、相手を動かすだけでなく共通の目的に向かって信頼関係を構築するもの。
提案は「意見」ではなく「目的に対する手段」
まず前提として、“提案”は「自分の意見を伝えること」ではないと考えています。本質的には「クライアントの目的を実現するための手段を提示すること」ではないでしょうか。
例えば、「このデザインはもっとシンプルにした方がいいと思います」と伝えるのは“意見”。一方で、「ユーザーの離脱率が高いので、視線の誘導を考えてシンプルな構成に変えてみませんか」というのが“提案”。
前者には「なぜ」が欠けていますが、後者には“目的”があります。提案とは、デザインや構成の変更を「目的に紐付けて説明できるかどうか」で決まるのではないでしょうか。
つまり、提案力とは「クライアントの目的を理解し、それに沿って行動できる力」だと感じています。
制作者が陥りやすい「主観提案」
Web制作者がつまずきやすいのが、“主観的な提案”ではないでしょうか。
- 「この色の方が好きです」
- 「こっちの方がカッコいいと思います」
という言葉。制作者として感性やセンスを持つことは大切ですが、ビジネスの場では“根拠”が必要です。
提案を受ける側が求めているのは、「なぜそうすべきなのか」という理由です。データや事例、ユーザー行動の分析など、裏付けのある提案が信頼につながると考えています。
例えば、
- 「過去のアクセスデータから、スマホユーザーが多いためファーストビューの情報量を減らした方が良さそうです」
- 「競合サイトの構成を比較すると、CTAまでの距離が短い方が成果につながりやすい傾向があります」
など、定量的・客観的な視点を交えると伝わりやすくなると感じませんか?
“デザインが好き/嫌い”ではなく、“目的に合う/合わない”で話せるようになると、提案の説得力が変わるように思います。
ビジネス視点を持つとはどういうことか
“ビジネス視点”を持つとは、制作そのものをゴールにせず「その先にある成果」を見据えること。
Webサイトは単なるアウトプットではなく、事業目標を達成するための“手段”として存在していると、私は考えています。
例えば、
- 売上やリード獲得の最大化
- 認知向上やブランドイメージの強化
- 問い合わせ対応や業務負担の軽減
といった、ビジネスの成果にどう貢献できるかを考えることが重要です。
また、提案の目的は「相手を説得すること」ではなく「共通の目的に向かって信頼関係を築くこと」ではないでしょうか。提案を通して「この人は自社のことを理解してくれている」と感じてもらえたとき、初めてパートナーとしての関係が生まれるように感じます。
信頼は、提案の量ではなく“的確さ”から。
クライアントが抱える本質的な課題を見抜き、それを言語化できる人こそが「提案力のある人」として評価されるのだと思います。
“伝え方”がすべてを左右する
どれほど内容の良い提案でも、伝わらなければ意味がありません。提案力は、内容と同じくらい“伝え方”も重要だと感じています。
相手の立場・温度感・理解度を見極めて言葉を選ぶことが大切です。例えば、デザインに詳しくないクライアントに専門用語を多用すると、それだけで距離が生まれてしまいます。
伝え方の工夫としては、次のような方法が有効と考えています。
- 選択肢を出す:「A案とB案のどちらも可能です。Aはコストが低く、Bは成果が出やすいです」
- 比較で見せる:「現状のデザインと改善案を並べて見せてみる」
- 実装コストを添える:「提案にかかる工数や費用をセットで提示する」
提案とは、「相手が判断しやすくなるよう整えること」。一方的に押しつけるのではなく、“理解の補助線”を引くことで、信頼につながるのではないでしょうか。
また、否定から入るのではなく、「目的に沿って考えた結果、こういう方法もあります」というように、前向きな表現にすることで相手も受け取りやすくなると感じています。
まとめ
“提案力”はセンスや発想力の問題ではなく、観察力と理解力、そして相手への思いやりから生まれる力。
クライアントの目的を理解し、課題を共有し、最適な手段を一緒に考える。それを続けていくことで、信頼関係が生まれ、結果として“提案力がある人”と見なされるようになるのではないでしょうか。
提案とは、相手を動かすためのプレゼンではなく、信頼を積み重ねるためのコミュニケーションだと思っています。制作に携わるすべての人にとって、“伝える力”はこれからも大きな武器になっていくと考えています。