“いい感じですね”が示す危険信号──フィードバックが曖昧なクライアントとどう向き合うか
誰もが一度は聞いたことのある「いい感じですね」
デザインや構成案を提出したときに返ってくる「いい感じですね」。Web制作の現場では、もはや挨拶のように使われる万能ワードです。
一見ポジティブに聞こえますが、実は何も言っていない。感覚的な表現であるがゆえに、制作者が次に何をすべきかの判断材料にはならないのです。
この“いい感じ”のまま進行すると、後になって「思っていたのと違う」「もっと派手にしてほしい」といった修正が発生するケースも少なくありません。
では、この言葉の裏にはどんな心理が隠れているのでしょうか。
この記事でわかること
- 「いい感じですね」は、具体的なフィードバックを欠いており、次のステップに進む際の判断材料にならない
- クライアントが曖昧なフィードバックを送る理由には、否定したくない、判断基準を持てない、責任を取りたくないなどがある
- 曖昧なフィードバックがプロジェクト全体に歪みを生み、修正の方向性が不明瞭になり、制作側に負担をかける
- 対策として、制作側が確認ポイントを提示し、クライアントの抽象的なフィードバックを具体的な言葉に翻訳することが重要
- 「いい感じですね」は対話の始まりであり、双方が言葉で共有し合う関係構築が重要
- 真の「いい感じ」は、言語化と信頼関係に基づいて成り立つ
「いい感じですね」に隠された心理
「いい感じですね」と言うクライアントが、必ずしも悪意を持っているわけではありません。むしろ、その裏には“言えない理由”や“判断の迷い”が潜んでいることが多いです。
よくある背景
- よく分からないけど否定したくない
専門的な内容についていけず、とりあえず肯定しておこうという心理。否定する自信がないために、無難な反応を選んでしまいます。 - 判断基準を持てていない
「何が良いか・悪いか」を言語化できる軸がなく、感覚で話してしまう。社内の意見を聞いてからでないと判断できないパターンも。 - 責任を取りたくない/議論を避けたい
明確な意見を出すと、それが判断の責任になる。面倒な議論を避けたいという防衛的な心理です。
つまり、「いい感じですね」は、理解していない・考えたくない・伝えられない のいずれかを示しているサインとも言えます。
なぜ問題なのか
曖昧なフィードバックが続くと、プロジェクト全体に歪みが生まれます。
- 意図がすり合わないまま進行する
目的や方向性が共有されないまま、表層的な判断でデザインが確定してしまう。 - 修正の方向性が曖昧になり、手戻りが増える
“思っていたのと違う”というズレが、後半で露呈する。 - 制作側が“察する”負担を抱える
クライアントの真意を読み取るために、余計な時間と労力を要する。 - 品質より“機嫌取り”が優先される
結果として、プロジェクトの本質より“気分”で判断されてしまう危険も。
Web制作において「伝わるデザイン」をつくることが目的なのに、曖昧なコミュニケーションが続くと、双方が“伝わらない関係”になってしまうのです。
対策①:「確認してほしい観点」を先に提示する
もっとも効果的な対策は、制作側から確認ポイントを明示することです。提出時に「見てほしい観点」を先に提示すると、クライアントも答えやすくなります。
たとえば、次のような聞き方が効果的です。
- 今回は 構成と訴求順 の整合性を中心に見ていただけますか?
- トーンや雰囲気 はブランドイメージに合っていますか?
- 見やすさ・読みやすさ の面で気になる点はありますか?
「どこを見ればいいのか」が分かると、クライアントも感覚的な反応ではなく、具体的な意見を返しやすくなります。結果として、認識のズレを早い段階で修正できるようになります。
対策②:曖昧なフィードバックを“翻訳”する
もし「いい感じですね」や「もう少し柔らかく」といった抽象的な表現が返ってきたら、それを具体的な言葉に“翻訳”してあげましょう。
| クライアントの言葉 | 制作者側の返し方 |
|---|---|
| 「いい感じですね」 | 「ありがとうございます。特にどのあたりが良いと感じましたか?」 |
| 「ちょっと違うかも」 | 「どの部分が違うと感じられましたか?色・配置・トーンなどでしょうか?」 |
| 「もう少し柔らかく」 | 「“柔らかい”というと、色味・フォント・余白など、どの要素をイメージされていますか?」 |
相手の言葉をそのまま受け取らず、“言語化の補助”をする。これが、プロとしてのコミュニケーション力です。
相手も「なるほど、言われてみれば」と気づきを得やすくなり、結果的に信頼関係が深まります。
「いい感じ」は終着点ではなく、対話のきっかけに
「いい感じですね」という言葉を悪と決めつける必要はありません。それはむしろ、コミュニケーションを深めるチャンスでもあります。
制作とクライアントは、対立する関係ではなく、同じゴールを目指すチーム。だからこそ、“察する”関係ではなく、“言葉で共有できる”関係を築くことが重要です。
「いい感じ」で終わらせず、「なぜいいのか」「どこが違うのか」を一緒に言語化していく。その積み重ねが、より良い成果物と信頼関係を生む第一歩になります。
まとめ
- 「いい感じですね」は危険信号でもあり、対話のきっかけでもある
- 曖昧なフィードバックは、“確認観点の提示”と“翻訳”で解消できる
- 真の“いい感じ”は、言語化と信頼の上に成り立つ