“きれいにしてください”では伝わらない ― デザイン発注で失敗しないための5つの注意点
「デザインをお願いしたのに、なんだか思っていたのと違う」
制作の現場では、そんな声をよく耳にします。
その原因は、必ずしも制作者のスキル不足ではありません。
多くの場合、「どう発注したか」の時点で、すでにすれ違いが始まっています。
「きれいにしてください」
「もう少し明るい感じで」
「オシャレな雰囲気にしたいです」
こういった言葉は、どれもざっくりしていて便利ですが、受け取る側の解釈の幅がとても広い言い方です。
結果として、双方がそれぞれの「きれい」「明るい」「オシャレ」を想像したまま進んでしまい、最後にズレが表面化します。
ここでは、制作側として関わってきた経験をもとに、デザイン発注で失敗しにくくなる5つのポイントを整理してみます。
1. 「きれい」ではなく「何を変えたいか」で伝える
発注のときにいちばん伝えたくなるのは、どうしても「見た目」の話です。
- もっと今っぽくしたい
- 信頼感があるデザインにしたい
- 高級感を出したい
もちろん、見た目の印象もとても大事です。
ただし、見た目だけをゴールにしてしまうと、ビジネス上の目的から離れていきます。
たとえば採用ページなら、
- 応募数を増やしたいのか
- 応募者のミスマッチを減らしたいのか
- 社内の雰囲気をちゃんと伝えたいのか
によって、必要な情報も構成も変わります。
デザインを依頼するときは、
「誰の、どんな行動が変わると成功と言えるか?」
をセットで伝えてみてください。
- 「資料請求の数を増やしたい」
- 「問い合わせの質を上げたい」
- 「既存顧客に、新サービスの存在をしっかり知ってほしい」
ここまで具体的になっていると、制作者はレイアウトやコピー、ボタン配置などを成果に紐づけて考えられます。
その結果、「きれいだけど何も起きないページ」から、「目的に近づくページ」へと近づいていきます。
2. 「任せたいところ」と「一緒に考えたいところ」を分ける
発注時によく起きるすれ違いのひとつが、「スタンスの曖昧さ」です。
- 最初は「任せます」と伝えたのに、途中から細かく口を出してしまう
- 「一緒に考えたい」と言いながら、実際は判断を制作側に丸投げしてしまう
どちらもよくあるパターンですが、結果的にお互いのストレスになります。
おすすめなのは、最初の段階で関わり方の線引きをしておくことです。
- 構成(どんな情報を入れるか・順番)は相談しながら決めたい
- 配色やフォントは、基本的に制作者に任せたい
- 文章は社内で書くので、レイアウトに落とし込むところを任せたい
このように、「任せるエリア」と「一緒に考えるエリア」を分けておくと、制作者側もリソースや責任範囲を見積もりやすくなります。
結果として、
- 修正の往復が減る
- 「ここまでお願いしていいのかな?」という遠慮が減る
といったメリットが生まれます。
3. 社内の関係者と承認フローを、最初に共有しておく
デザイン案件が荒れやすい理由のひとつが、「最後に初登場の人」が出てくることです。
- 公開直前になって、経営層から大きなNGが出る
- 別部署の上長が登場し、コンセプトからのやり直しになる
こうした事態は、制作側だけでなく、発注側にとっても精神的な負担になります。
できれば、初回の打ち合わせの段階で、次のような点を共有しておけると理想的です。
- 最終決定権を持っているのは誰か
- どのタイミングで、その人に見せる必要があるか
- 社内での確認に、どれくらいの日数がかかりそうか
スケジュール表に「社内チェック」の行を足しておくだけでも、全体の見通しがぐっとクリアになります。
制作側も、
「このタイミングなら多少の戻りがあっても吸収できる」
「ここを超えたら、方針変更は難しい」
といったラインを引きやすくなり、結果として納期トラブルを防ぎやすくなります。
4. 参考サイトは「どこが、どう良いか」までセットで渡す
「このサイトのデザインが好きです」と伝えるのは、とても良いスタートです。さらに一歩進めて、「どこが、どう良いのか」も一緒にメモしてみてください。
たとえば――
- ファーストビューの写真が印象に残る
- 余白が多くて読みやすい
- 診療内容の一覧がわかりやすい
- フォームの質問数がちょうどよく感じる
こういった粒度で「好きな理由」がわかると、制作者側は
「再現すべきポイントはここだな」
「このサイトのこの部分は、今回のプロジェクトでも使えそう」
といった判断がしやすくなります。
逆に、理由が共有されていないと、
- 発注者は「写真の雰囲気」を見ている
- 制作者は「配色やフォント」を真似しようとしている
というように、それぞれ別のところを見てしまうこともあります。
参考にするサイトは3〜5件程度に絞りつつ、
- 好きなポイント
- 逆に、ここは真似したくないポイント
まで書き出しておくと、打ち合わせの精度がぐっと上がります。
5. ディレクションも「制作の一部」として考える
見積書を見たときに、「デザイン費はわかるけど、ディレクション費って何?」と感じたことはないでしょうか。
ディレクションには、おおまかに言うと次のような仕事が含まれています。
- 課題や目的を整理し、方向性を決める
- ページ全体の構成や粒度を整える
- 関係者同士の認識がズレないよう、間をつなぐ
- スケジュールや進行を管理する
どれも「きれいな見た目」とは別軸の仕事ですが、ここが弱いと、最終的なクオリティは大きく落ちてしまいます。
「デザイン料だけにして、ディレクションは削れませんか?」
という相談を受けることもありますが、
きちんと設計されていない状態で見た目だけ整えても、
結局どこかのタイミングでやり直しが発生しがちです。
ディレクション費用は、トラブルを防ぎ、プロジェクト全体のコストを抑えるための“保険”のような面もあります。
「必要なものに、ちゃんとお金をかけている」と考えてもらえたらうれしいです。
まとめ:発注の質が、制作の質を底上げする
デザイン発注は、単に「お願いする」行為ではなく、プロジェクトのスタート地点そのものです。
- 目的を「見た目」ではなく「どんな変化を起こしたいか」で共有する
- 任せたい範囲と一緒に考えたい範囲を、できるだけ言葉にしておく
- 社内の関係者や承認フローを、あらかじめ制作側に見せておく
- 好きな参考サイトは「どこが良いか」までセットで渡す
- ディレクションも含めて、制作全体として捉える
こうした小さな工夫が積み重なると、制作者は「良いものをつくるために、力を出しやすい状態」になります。
発注の質が上がると、制作の質も自然と底上げされます。
「きれいにしてください」という一言の裏側にある目的や背景を、少しずつ言語化していくところから、一緒に整えていけたらと思っています。