「保守しやすいコード」とは?現場で差がつくコーディングの基本
“保守性”が重要な理由
Web制作の現場では、コーダーが手を離れたあともサイトの運用が続く。その中で、急な修正や追加対応、運用者による更新などが発生するのは珍しくない。クライアントが自社で更新したり、別の担当者が改修を加えるケースもあるため、「自分以外が触ること」を前提にした実装が求められる。
そのため、読みやすく・構造が分かりやすい・改修時の影響範囲が限定されているようなコード=保守性の高いコードが、現場では重宝されるのだ。
この記事でわかること
- 保守性が重要であり、修正や追加が発生するため、他者がコードを理解しやすい実装が求められる。
- HTMLではセマンティックなタグを活用し、インデントやコメント、命名ルールを統一することで保守性を高める。
- CSSではSCSSを使用し、ファイル分割や責務の明確化、適切なIDとclassの使い分けが重要。
- JavaScriptではHTMLとの疎結合を保ち、関数化・分離し、適切なライブラリを選定することが保守性確保に役立つ。
- CMSや運用を見越したコーディング、パーツの粒度を小さくすることが保守性向上に貢献する。
- コーディングルール導入やコードレビュー、ドキュメント整備などの取り組みがチーム内での品質向上につながる。
保守しやすいHTMLの書き方
セマンティックなタグを使う
単に見た目を整えるためではなく、「この要素は何を意味しているのか」を正しく伝えるために、適切なタグを使おう。<div>や<span>に頼りきらず、<header>や<nav>、<section>などのセマンティックなタグを活用することで、可読性とアクセシビリティが向上する。
インデント・コメント・構造の統一
誰が見ても迷わないように、インデント幅や改行のルールは統一しよう。複雑な入れ子構造になりそうな部分にはコメントで区切りをつけ、メンテナンス時の負荷を下げる工夫も重要。
命名ルールを決めておく
クラス名はBEM(Block Element Modifier)などの命名規則を取り入れると、可読性が高く、再利用しやすい。筆者も非常に推している命名規則である。
<!-- BEMでの命名例 -->
<div class="card card--featured">
<h2 class="card__title">タイトル</h2>
<p class="card__description">説明文</p>
</div>
CSS設計と管理のポイント
プリプロセッサ(SCSSなど)の活用
CSSの保守性を高めるには、SCSSを使って構造を分割・整理しやすくするのが有効。変数やミックスインで一貫性を保ち、更新も効率化できる。
ファイル分割と責務の明確化
たとえば以下のように役割ごとにファイルを分けると、影響範囲が明確になる:
_variables.scss:色・フォントサイズなどの変数_mixins.scss:繰り返し使うスタイル処理_components.scss:パーツ単位のスタイル_layout.scss:レイアウト全体の制御
ユーティリティとカスタムの使い分け
余白やテキスト整形など、共通で使うものはユーティリティクラス化し、それ以外はパーツ単位でスタイルを定義するようにすると、肥大化を防げる。
IDとclassの適切な使い分け
基本的にCSSではclassを使う
CSSでIDをセレクタに使うと、特異性(Specificity)が強くなりすぎ、上書きが難しくなる。そのため、スタイリングには基本的にclassを使おう。
/* NG */
#header {
background: red;
}
/* OK */
.header {
background: red;
}
IDはアンカーやJavaScript用途に限定する
IDはページ内リンクや、JavaScriptでの操作対象として使うのが基本。見た目の制御ではなく、ユニーク性を要する場面でのみ使用する。
再利用を考えるなら迷わずclass
複数ページで同じ見た目のパーツを使いたいときは、IDではなくclassでスタイリングを行うことで保守性と柔軟性が高まる。
JavaScriptにおける保守性の確保
HTMLとJSを疎結合に保つ
直接DOM構造に依存したコードではなく、data-属性や特定のclass名を使ったセレクタで要素を取得するようにすると、HTMLの変更による影響を減らせる。
処理は関数化・分離する
一つの関数に複数の責務を持たせず、必要に応じて分割・再利用しやすい形で実装しよう。匿名関数よりも、名前付きの関数にしておくと、デバッグもしやすい。
ライブラリの選定基準を持つ
jQueryを使うか、Vanilla JSで書くか、あるいはReactやVueなどのフレームワークを使うかは、プロジェクトやチームの前提条件に合わせて選定しよう。どんな選択であっても、メンテナンスしやすい構成であることが重要。
CMSや運用を見越したコーディング
更新者が触れることを意識する
WordPressやSTUDIOなどのCMSを導入する場合は、テキストや画像を管理画面から変更できるよう設計しておくことが求められる。HTML直書きではなく、変数やカスタムフィールドで対応するのが基本。
パーツの粒度は小さく
後から流用・再利用できるように、パーツ単位で設計しておくと運用の自由度が高まる。特にボタンや見出し、画像+テキストなどのよくある構成は、コンポーネント化して管理するのがおすすめ。
よくあるNG実装とその回避法
!importantの多用 → スタイルの上書きが難しくなる- 深すぎるセレクタのネスト → 読みづらく修正しにくい
- CSSでのidセレクタ多用 → 特異性の問題
- JSでのDOM構造依存 → 修正時にバグが出やすい
NG実装は一見便利だが、後々の修正や機能追加時に問題を引き起こす。常に「将来的にどうなるか」を想像しながら選択したい。
コーディングルール・レビュー文化のすすめ
Lint・Formatterの導入
PrettierやStylelintを導入して、自動整形・構文チェックをかけることで、チーム内のコーディングスタイルを統一できる。属人的なクセを減らし、品質の底上げにつながる。
GitHubでのレビュー文化
コードレビューを導入することで、属人化を避けられたり、実装ミスの早期発見にもつながる。「見た目が正しければOK」ではなく、保守性・拡張性の視点も評価軸に含めたい。
ドキュメントの整備
READMEやデザインツール(Figma)に加えて、Notionなどを活用してルールを明文化しておくと、引き継ぎや教育コストを下げることができる。
まとめ:コーダーの視点が“運用しやすさ”をつくる
デザイン再現だけに注力するのではなく、「この後誰が・どのように使っていくか」という視点を持った実装が、長く使われるサイトを生み出す。保守しやすいコードとは、単に美しいコードというだけではない。「誰が読んでもわかる」「変更しやすい」「引き継げる」ことが、現場で求められる真の品質だ。